日本計算工学会 会長挨拶
計算工学と学会への期待
武田前会長の後を受けて、5月から会長を仰せつかりました。まずは最初の1年間よろしくお願い申し上げます。
学術としての計算工学の現状に関しては、今年の春に発刊された「計算工学」Vol. 11, No. 1に各分野の先生方の寄稿がありますので、是非そこを参照していただきたいと思います。また、同じ号に若手の座談会があり、みなさんの思いが語られていますのであわせてご参照ください。私自身も、流体分野ということで寄稿させていただきましたが、計算工学一般に話を拡大して、一点だけ繰り返し触れてみたいと思います。
大学、企業も含め数値シミュレーション技術はどのように使われてきたでしょうか。利用法は3つから4つに分類できると思います。1つは、「課題解決型」です。製品開発の途上で、「問題が出たが原因がわからない」とか、「どうも実験だけでは理由がよく掴めない」とかいう際に利用される数値シミュレーションです。次に「初期設計型」があるでしょう。設計の段階でツールの1つとしてシミュレーションを利用することです。計算工学に信頼感を持っている分野、それなくしては開発期間とコストが膨大になる分野では、この利用が進んでいます。航空機で言えば、ボーイング747の開発にかかった風洞試験時間は1万時間と言われています。これでは社会的な需要に敏速に対応できません。航空機開発では、計算工学技術は設計の不可欠な道具となっています。さらに大学で言うと、純粋に学問的な「現象理解型」があると思います。課題解決や初期設計でもこういった使い方があるので3つ目というより、横断的と言えばいいでしょうか。ここで、強く主張したいことが1つあります。それは、「計算工学の強みに目を向けましょう」という点です。数値シミュレーションは、さまざまなケースが、手軽に1つの計算機の上で仮想的に実現できることに特徴があります。その意味で、「初期設計」の手前の「概念設計」に着目した研究ができたら面白いと思います。計算工学技術を利用してこれまで考えもしなかったアイデアの実現性を示すといったことが計算工学への社会の理解や当分野のさらなる発展につながるでしょう。実験の代替といった受け身的な貢献だけでなく、是非、計算工学によって創造的なアイデア実現を実現して欲しいと思います。
次に学会について考えてみましょう。計算工学会は10年を越えた比較的若い学会ですが、一般に学会の目的は、その分野の研究者・技術者の意見交換の場を提供し、当該分野の発展や社会生活へ学術的な寄与を目指すことだろうと思います。具体的な活動に目を転ずると、ほとんどの学会が(1)講演会の開催、(2)学会誌の発行、の2つの事業を柱として活動しています。元々、情報交換や研究成果の公表の場が少なかった時代には、当然大きな貢献をしてきました。今でも、新しく目を出しつつある分野や変革が起ころうとしているときなどでは欠かせない手段ですし、私たちの計算工学講演会も参加者にとって価値ある集まりです。一方、時代の変化からインターネットやメールによる情報交換が進み、情報はこれまでより格段に多様な手段で手に入る時代となってきました。その結果、世の中のほとんどの講演会は発表自体が目的化(某元神戸大学教授は、学会発表は研究者の排泄行為(失礼)だと語っています)し、採算のため多数の講演を集める、という悪循環に陥っている気がします。学会発表がないと出張旅費が出ない政策をとる研究機関や大学等も少なくないようです。私は、これは間違っていて、むしろ利用出来そうなアイデアを手に入れるために自分の専門以外の講演会に出席して研究の幅を広げることを奨励すべきだと思います。ちなみに、別の学会の例ですが、30年ほど前の第1回の講演会は発表件数40件、参加者240名というのがあります。これなどは、多数の方が情報を求めて集まった講演会の本来の姿の典型例ではないでしょうか。今は、発表件数に若干の上乗せをした程度が参加者数となっている講演会がほとんどでしょう。何か違っている気がします。
もちろん、今後も講演会は十分意義があり、さらに有意義にすべくさまざまな工夫を凝らして継続していくべきです。ただ、それ以外に時代の変化にあわせた学会活動があるのではないだろうかということです。ではそれは何でしょうか?ソフトウェアの利用技術ばかりが進んで、基礎的な計算工学知識が欠如しつつあることへの危惧もあります。例えば、海外との連携もあるでしょうし、新しい企画もあるでしょう。実は、昨年途中から理事会や企画連絡会議の機会を利用して何度か議論を進めてきました。いくつかのアイデアは出たものの、革新的なアイデアを出すには至っていません。私自身はウェブサイト、とくに旧来の情報掲載だけでなくBBS的なものやブログ的なものの有効利用にヒントがあるのではないかと思っていますが、具体的なイメージが得られていません。大切なことは、「この学会は面白いことをやっている」「入ると役に立ちそう」「会員でいたいと思う」といったメリットに結びつくこと、また社会的に見ても有意義な活動であることだろうと思います。それにより内容は大きく異なりますが、対象は、研究者であっても、企業の技術者であっても、一般の方々であってもいいでしょう。
幸い、学会の財政基盤はある程度安定してきたと言えます。それを背景に、少なくとも新しい動きの芽くらいは出して次年度に引き継ぎたいと考えています。単純に「こんなことをやってくれるといいなあ」といった意見で結構ですので、学会事務局アドレスoffice@jsces.orgを宛先として、会員のみなさんから遠慮のない意見をいただきたいと思います。是非、それらを理事会での議論の参考にさせていただきたいと思います。
微力ながら、会員のみなさまに有意義な場を提供するべく理事会メンバーとともに努力していく所存です。1年間みなさまのご協力よろしくお願い申し上げます。