学会賞受賞者
日本計算工学会では、計算工学に関わる学問および技術向上の発展に貢献した会員を称えるため、学会賞を授与しています。学会賞には、(1)計算工学大賞、(2)功績賞、(3)川井メダル、(4)庄子メダル、(5)論文賞、(6)技術賞、(7)論文奨励賞、(8)技術奨励賞、(9)博士論文賞、(10)功労賞があります。計算工学大賞は、計算工学の学術的な発展に対して世界的に顕著な貢献のあった方(会員である必要はありません)に授与されます。功績賞は、本会の運営発展、あるいは計算工学の発展に著しい貢献のあった正会員または正会員であった者に授与されます。川井メダルは、本会の初代会長川井忠彦先生の功績を記念して設けられた賞で、本会の運営発展、あるいは計算工学の発展に特別の貢献のあった、受賞者の年齢が受賞年の4月1日現在で満50歳以下の正会員に授与されます。庄子メダルは、本会の民間出身の初代会長を務めた庄子幹雄氏の功績を記念して設けられた賞で、産業界における計算工学の発展に特別の貢献のあった正会員に授与されます。論文賞は、計算工学の発展に顕著な貢献をしたと認められる論文の著者である正会員、名誉会員、シニア会員、学生会員または研究室会員に授与されます。技術賞は、計算工学の発展に顕著な貢献をしたと認められる技術、作品の開発者である正会員または特別会員に授与されます。論文奨励賞は、計算工学の発展に顕著な貢献をしたと認められる論文の著者で、今後の発展を奨励することが適当と認められる、受賞者の年齢が受賞年の4月1日現在で満40歳以下の正会員、学生会員または研究室会員に授与されます。技術奨励賞は、計算工学に関する技術、作品の開発、改良、維持、普及展開等に従事し、計算工学の発展に顕著な貢献活動をした研究者や技術者で、今後の発展を奨励することが適当と認められる、正会員、学生会員または研究室会員に授与されます。博士論文賞は、特定の研究領域を深化させることで計算工学の可能性を高めたことが認められる博士論文の著者で、自身の更なる発展と計算工学への貢献が大いに期待され、年齢が受賞年の4月1日現在で満35歳以下の正会員に授与されます。
表彰委員会における厳正な審査の結果、2022年度につきましては、下記の方々が受賞され、2023年5月23日(火)に開催された総会において表彰されました。
2022(令和4)年度贈賞者リスト
(1) 計算工学大賞
- Yoon Young Kim氏(韓国 ソウル国立大学)
- Yoon Young Kim博士は、ソウル大学の教授を務め、30年の長きにわたり重要でかつ独創的な研究を通して計算工学分野に強い影響力を与えてきた。剛体機構に重点をおいたトポロジー最適化など、計算工学分野において極めて顕著な研究業績を有し、432編以上の論文を著し、APACM Award for Computational Mechanicsをはじめとする多くの賞を受賞している。さらに同氏は2018年からIACMのExecutive Council Member、さらに2018年よりAPACMのExecutive Council Memberを、2016年のWCCM会議では共同議長も務め、計算力学の国際交流への貢献も大きい。
(2) 功績賞
- 山田 貴博氏(横浜国立大学)
- 山田氏は、非線形有限要素法の第一人者であり、大変形問題の有限要素解析手法およびその特性評価に関する研究分野において世界的に卓越した研究業績を上げ、2005年に日本計算工学会論文賞を、2012年に川井メダルを受賞している。また、同氏は本会の会誌編集委員会幹事、理事、副会長、会長、監事などを務め、計18年もの長きにわたり本会の運営と発展に尽力した。
- 高野 直樹氏(慶應義塾大学)
- 高野氏は、先進材料の確率的マルチスケール解析やバイオメカニクス解析の研究に従事し、2013年に川井メダルを受賞している。同氏は2010~15年度には理事として、企画運営委員会委員、広報委員会委員長、第16・17回計算工学講演会実行委員長を務めた。また、2009年から現在まで、シミュレーションの品質・信頼性にかかわる調査・研究分科会の副主査としてV&Vに関する学会標準を編纂し、本会の活動・運営への貢献が著しい。
(3) 川井メダル
- 高木 知弘氏(京都工芸繊維大学)
- 高木氏は、フェーズフィールド(phase-field、PF)法の研究の第一人者であり、材料組織予測を中心とし、トポロジー最適化、き裂進展、混相流など多様な現象や分野にPF法を適用した研究を展開している。とくに高性能PF計算による凝固や粒成長の大規模PFシミュレーションで世界的に高く評価されている。国内外の学協会から多くの受賞があり、2022年度から理事として本会の運営に尽力している。
(4) 庄子メダル
- 猿渡 智治氏(株式会社JSOL)
- 猿渡氏は、自動車の衝突安全設計分野を中心にCAEパッケージソフトのコンサルティングおよび技術営業に従事する傍で、建築構造や社会インフラの維持管理及び防災・減災に関する数値シミュレーションの研究活動に携わっている。本会においては、2011年より講演会実行委員、講演会表彰委員、ベンダーユーザー講演委員を務め、2022年度より理事、会誌副担当として、学会の運営に貢献している。
(5) 論文賞
- 山本 剛大氏、山田 貴博氏、松井 和己氏
「Block Newton法の平面応力弾塑性問題への適用」Paper No.20210021 - 本論文では、平面応力弾塑性問題を、つりあい方程式、降伏条件式、平面応力条件式から成る連成問題として扱い、Block Newton法で解く数値計算手法を提案した。この定式化では、内部反復の必要がなく、連成問題として導出される接線係数を用いて、全体の反復計算の残差を同時に減少させることができる。提案手法による検証解析の結果として、計算精度に関する信頼性は十分に得られており、新たな計算アルゴリズムとして今後の発展が期待できる。
(6) 技術賞
- 一般財団法人電力中央研究所
「表面き裂解析プログラム(SCANP)」 - 電力中央研究所は、発電プラント等の構造材料の破壊やき裂進展の高精度な解析を実現するため、横浜国立大学の白鳥教授(当時)が開発した応力拡大係数のデータベースにより構成される表面き裂解析プログラムを基に、SCANP(Surface Crack Analysis Program)を開発した。SCANPにより、き裂を有する構造の応力拡大係数を短時間に計算し、疲労や応力腐食割れに関するき裂進展解析を行い、計算結果を視覚的に分かりやすい形式で出力できる。ユーザーは大学、研究機関、メーカー、電力会社など24機関にのぼり、有用なツールとして活用されている。
- 小野寺 誠氏、濱口 崇志氏(株式会社日立製作所)
「設計段階で不良ポテンシャルを自動チェックする気づき支援CAD技術」 - 小野寺、濱口両氏は、日立製作所において、様々な特徴的CAD形状を高精度に検索可能な「形状認識AI」や、高精度と高速化が両立した「幾何特徴量計算」などの独自アルゴリズムを開発し、CADを用いた設計において設計ルール違反を高速、高精度に自動認識可能な技術を開発した。本技術は、標準機能ライブラリとしてオープン化されているので容易に利用可能で、すでに製品化されており社内外十数の事業所や企業で活用され設計期間短縮に大きな効果をあげている。
(7) 論文奨励賞
- 菅井 理一氏(東北大学)
「Extended B-spline基底関数を用いた陰的MPMの有限変形弾塑性問題への適用」Paper No. 20210022 - MPM(Material Point Method)は、Lagrange粒子とEuler 格子を用いた粒子法の一種であり、FEMによる固体の大変形解析で問題となるメッシュ破綻を回避できる。EBS-MPMは、基底関数としてB-spline関数を用い、境界付近の精度低下を回避している。本論文では、陰解法に基づくEBS-MPMを弾塑性問題に適用するための基礎検討として、この方法の精度について調査している。高次のB-spline関数を用いたEBS-MPMを用いれば、微圧縮性および塑性非圧縮性に起因する体積ロッキングを抑制でき、FEMと同等の精度で結果が得られることを示しており、今後の発展性が十分に期待できる。
- 野村 怜佳氏(東北大学)
「模擬津波動態とベイズ更新によるリアルタイム津波リスク評価手法」Paper No.20220003 - 本論文では、計算工学、データ科学技術の双方を融合させることにより開発したリアルタイム津波リスク評価手法の提案およびその性能の例証が報告されている。提案方法は、模擬津波動態の固有直交分解から抽出されるモードやシナリオ特有成分によってデータベース探索、シナリオ同定を行っている点が独創的である。また、確率による重みづけを行うベイズ更新によるシナリオ同定や、南海トラフ巨大地震を対象としたケーススタディなどからも、即時性と信頼性の双方を両立させ、実用性の高い手法へ昇華させようとする挑戦的な姿勢がうかがえる内容となっている。
(8) 技術奨励賞
- 金築 康友氏(株式会社ソフトウェアクレイドル)
「Cradle XR」 - 金築氏は、株式会社ソフトウェアクレイドルにおいて、新しい可視化ソフトウェアであるCradle XRの開発を行ってきた主要メンバーの一人である。Cradle XRの特筆すべき機能・特徴は、①拡張現実(AR)表示機能、②iPhone/iPadによる表示機能、③マーカーによる自動位置合わせ機能である。このような新しい可視化ソフトウェア開発によって、国産ソフトウェアの海外を含めた展開を進め、我が国の計算工学分野の発展に大きく寄与した。また、従来CFDが活用されてきたエンジニアリング分野のみならず、医療分野など新しい領域への様々な応用を展開していくことが期待できる。
(9) 博士論文賞
- 嶋田 宗将氏(神戸大学大学院)
「マーカー粒子を用いたオイラー型流体- 構造統一解法に関する研究」 - 嶋田氏の博士論文は、従来のオイラー型解法による構造解析が抱える問題を解決するために、固体領域を陽的に表現すると同時に固体内部変数を保持・計算するためのマーカー粒子を導入する方法を提案している。提案手法の妥当性と有効性を流体- 構造連成問題によって検証し、従来手法に比べて解析精度や空間収束性が向上していることや、従来困難であった角部等の先鋭形状の維持が可能であることを確認している。また、提案方法の超並列計算機環境における大規模解析への適用可能性を示しており、今後の応用が期待される。
- 森川 ダニエル しげお氏(九州大学大学院)
「Toward robust landslide simulations from initiation to post-failure using the Smoothed Particle Hydrodynamics」 - 森川氏の博士論文は、地盤力学などの基礎力学からGPGPUによる大規模粒子法ツールの開発まで、多岐にわたる学問分野の研究内容を含んでいる。とくに、粒子法による地すべりの予測に資するために、安定化技術、地盤材料構成則を適用した非線形解析技術、流動化する過程を高粘性流体として模擬する解析技術を開発し、新たな解析手法として提案をしている。本論文の成果は、すでに3編の学術論文として、国際専門誌に受理・発刊されており、高い評価を受けている。